板橋区立小学校PTA連合会

会長の100冊読書(56)『陰翳礼讃』

「陰翳礼讃」

作:谷崎 潤一郎

この本を読んだのが高校生の頃。当時寝ても覚めてもプロレスオンリーだった私ですが、この本を読んで日本人の「心」を知りました。

特に印象に残っているのが、「味噌汁」。薄暗い部屋に燭台で蝋燭に火を燈し、ほの暗さに漆椀が最高に映えるという。またこの時の味噌は断然赤みそが良い。汁の中の具が分かるなんて愚の骨頂。暗さも手伝い、赤みその中に何の具が入っているか分からない、「その陰影が最高に良い」と述べている。それを読んですぐ母に「オカン、これから赤みそにしてくれ!」と言った単純な私でした。

また強烈なバックドロップを食らったかのような衝撃を受けたのが「厠」。谷崎は「厠フェチ」ではないか、と思う程に厠、つまりトイレの話をしている。その中の一つに中国の故事を紹介しているが、蛾の羽を大量に集めて厠の床下に敷き詰めている。そこへ便を落とすと、糞溜めの暗い中で雲母のような無数の蛾の羽が舞い上がりキラキラ光り、最高に美しい。第一、自分が落とした便はすぐさま羽の中に埋もれ、見えなくなってしまう。ただし夏の間に八百万(やおよろず)の蛾の羽を集めなければならない。現在「1億円のトイレ」などと話題を呼んだりしているが、これはそれを凌駕する究極のトイレであると思う。さすがにこればかりは「オカン、トイレに蛾の羽を敷き詰めてくれ!」とは言えなかった…。

船渡小 森 剛

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