板橋区立小学校PTA連合会

会長の100冊読書(59)『影の獄にて』

『影の獄にて』 

L・ヴァン・デル・ポスト著 由良君美、富山太佳夫訳 新思索社
1983年に公開された映画「戦場のメリークリスマス」(大島渚監督)の原作である。映画にはデビット・ボウイ、坂本龍一、ビートたけし等(他には内田裕也やジョニー大倉も)が出演し話題になった。坂本龍一によるテーマ曲が今も広く聴かれている。坂本龍一は、この映画で初めて映画音楽を手がけたのだが、これがその後のアカデミー賞やバルセロナオリンピック等に繋がっていく。ビートたけしにとっても、この映画に出演したことが、その後の巨匠・北野武監督に繋がっていくのである。 「戦メリ」は、私が最も影響を受けた映画である。今でも毎年2回は見ている。ちなみに、DVDは長い間廃盤となっており、中古市場でかなりの高値が付いていた。ようやく昨秋に紀伊國屋書店から再々発売された。それにつれて中古品の値も3000円台まで下がっている。未見の方は是非ご覧になってみてください。 この小説の著者は南アフリカ出身でイギリス国籍の作家である。生前は作家だけでなく、多方面で注目されていた人である。本書の第一部「影さす牢格子」と第二部「種子と蒔く者」は、著者が第二次世界大戦で従軍し、ジャワで日本軍の俘虜となった時の体験を基にした物語である。この二つの章は、ハラ軍曹やヨノイ大尉という、当時の「日本」を象徴するような二人の人物を中心に描かれている。親日家の著者による日本人や日本文化への理解は鋭く、西洋人との対比によって描かれる彼らの行動は、日本社会を見る鏡のようでもある。第三部「剣と人形」に日本人は登場しないが、やはり対日戦での体験が語られる内容である。 ユングと親交のあった著者は、明らかにユング心理学的な視点で物語を構成している。タイトルの「影の獄にて」は、西洋人にとっての「影」である日本軍の収容所での体験、という意味と同事に、人はみな「影」の牢獄に繋がれている、という二重の意味が込められている(会長の100冊読書『影の現象学』参照)。各章のタイトル及び内容からも、ユング心理学の下敷きが色濃く見える。河合隼雄博士も、ユング心理学を学ぶためのスイス留学中に、本書を薦められて読み、深い感銘を受けたそうである。 本書は、「わたし」と戦友のロレンスが、クリスマスの前夜からクリスマスの夜までの対話において、戦時中に体験した印象的な出来事の意味に気づいていく物語である。三部作を通して「影」との対決、対話、そして和解が描かれている。したがってデリケートな心理描写などが多く、翻訳物ということもあり、読みやすい小説ではない。しかし、丁寧に読み進むと、読後に深い感動が残る素晴らしい作品である。 それにしても、この作品を読んで映画化を思い立ち、あのような形で実現した大島渚監督は偉大だと、つくづく思うのである。
小P連顧問 小笠原隆浩

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