板橋区立小学校PTA連合会

会長の100冊読書(53)『義経』

司馬遼太郎「義経」

大河ドラマの平清盛ではなく敢えて源義経。なんか変な読後感の残る本です。司馬遼太郎というと、「竜馬がゆく」(坂本竜馬)「国盗り物語」(斎藤道三+織田信長)「項羽と劉邦」のような、登場人物の魅力で一気に読み進む小気味いい感じか、「坂の上の雲」(秋山兄弟+正岡子規)「燃えよ剣」(土方歳三)あたりの、「こんな人がいたんだ」「こんな人にこんな面があったんだ」という「ほほぉー」みたいな感じの分類かと思ってました。そこで出会ったのが「関が原」。徳川家康がいかにして豊臣恩顧の諸将を切り崩し、豊臣vs徳川ではなく石田光成vs徳川の私戦に持ち込み、諸将を味方(というか敵の敵)に引き入れるか。延々と政治や人心掌握が語られます。

そして別の意味ですごいのがこれ、「義経」。もちろん源義経です。司馬さん、たぶん冒頭の人たちは好き。徳川家康については畏敬とまでは言いませんが好意以上の半端ないすごさを感じてるのかも。

しかしこの源義経については、「?」。むしろ、「嫌い?馬鹿にしてる?」っていう感じです。普通、「義経」なんて題を見ると、鵯越や屋島の奇襲、壇ノ浦八艘飛び、そしてその周辺の華々しい戦勝の場面や悲壮な最期が浮かぶんでしょうが、これは違います。もちろん義経の類稀なる軍事能力は激賞され、武将を惹きつける能力も(少しだけ)書かれてますが、それを超えて語られる、生涯変わらない勘違い、そして政治力の欠如・・・。大人ってやっぱり政治力がないとダメなのかなぁ・・・などと思ってしまうところで、正直読後感気持ち悪いです。

子ども達には、「義経」ではなくまずは「竜馬がゆく」をお奨めします。結論として、本題のお奨めは一つの作品ではなく一連の「司馬遼太郎」ということで。時代背景や人間観察の眼力は素晴らしく、何度読んでもそのたびに新たな感慨があります。

緑小 武田寛之

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